【更新日:2021年6月18日 by 鈴木 智絵】
2021年3月18日−19日にオンラインで開催されたMASHING UP SUMMIT 2021。
2日間で13のトークセッションが展開され、多様な分野で活躍する登壇者たちがSDGsというテーマを通じ、未来のビジネスのあり方について深いディスカッションを行う場となった。
今回の記事では「企業とSDGsの現在地。課題とビジネスのこれから」をテーマとしたトークセッションの内容をまとめている。
日本のビジネスにおけるSDGsの課題やESG経営の意義について、日本のSDGsをとりまくオーバービューを解説。企業SDGs担当者や若手起業家、これからの社会をつくる世代に欠かせないトークセッションである。
見出し
登壇者
シェルバ英子
ファーストリテイリングコーポーレイト広報部 ソーシャルコミュニケーションチーム
ノイハウス萌菜
サステナビリティ・コンサルタント のーぷらNO PLASTIC JAPAN
テーマ① ファーストリテイリングのサステナビリティへの向き合い方
長年の活動の中で最も難しかったこと(ノイハウスさん→シェルバさん)
現在は一種のトレンドのようにも見られるサステナビリティだが、20年前の認知度や認識は今と全く違うものだった。
当時は事業活動と完全に分離されていると考える人も多く、「会社の中でも『社会貢献をするチーム』という認識が強かった」とシェルバさんは語る。
利益を生み出す存在ではなく※1コストセンターの位置に見られ、※2バジェットの確保が最も困難だった。
服を通じて何ができるか、という意識を持つ人が多いファーストリテイリングであっても、目に見えてすぐに結果が出るわけではないサステナビリティの推進にはなかなか社内の合意が取れなかった。
近年、サステナビリティ活動の重要性の認知度が進み、若い社員からの理解が得られやすくなってきており、このチャンスを最大限活かしていきたいという。
※1 企業の事業部門ごとに費用を算出し、分析や評価などを行う部門のこと。責任センターの1つ。コストセンターでは、費用の評価を行うことを目的とし、利益や収益率、収益などは問わない。 |
※2 政府などの予算。予算案。また、特定の用途のための経費。 |
プロジェクト内容を決める基準(ノイハウスさん→シェルバさん)
ファーストリテイリングは服を商品として扱う以上、服、またサプライチェーン全体の負荷になっていることを解決していくことが根底にあると前置きし、シェルバさんは続けた。
この質問への回答には社会課題の選定がキーになるそうだ。
社会課題ありきで活動を考えるのではなく、ファーストリテイリングで行っている事業をどのように社会課題の解決に活かせるのかを考えることが大切なのだ。
シェルバさんは、その一例として「全商品リサイクル活動」を挙げた。
全商品リサイクル活動とは、顧客から商品を回収した服をリユース・リサイクルすることを通して、服の持つ価値を最後まで活かすことができるファーストリテイリングが大切に取り組む活動だ。
現在は「RE.UNIQLO」というユニクロの取り組みに発展し、難民への衣料支援やCо2の削減に役立つ代替燃料への再利用などを担っている。
元々この活動はリサイクルのみに焦点を当てたものだったため「全商品リサイクル活動」として発足したが、コンディションの良い服が多く集まっているのを実感し、リユースもできるのではないかと考えたそうだ。
その時に難民の衣料不足を知り、このプロジェクトを活かすことになったのだという。
このように課題の解決のために1つのプロジェクトを立ち上げるのではなく、柔軟な姿勢でファーストリテイリングが何をできるのかを考えているのが他社にはない魅力だ。
ノイハウスさん「確かにその時によって変わるテーマを追いかけるのではなく、会社としてステップを踏んでいく方が根付いたものになりますね。」
シェルバさん「ただ、ここ数年はそうとも言ってられない状況となりました。」
特にファーストリテイリングは環境への貢献という面で、欧米などのアパレル業界より遅れている現状がある。
欧米では環境に配慮していない商品というだけで購入しない顧客も増えてきていて、かなり危機感を感じているそうだ。そのためプロジェクト内容を決める 1つの基準として顧客の声も取り入れるようになってきており、本格的に昨年からサステナブルな商品の発売へと乗り出している。
長年の活動の中で最も楽しかったこと(ノイハウスさん→シェルバさん)
シェルバさんの最も楽しくやりがいに感じたプロジェクトは、バングラデシュで行ったソーシャルビジネスである「グラミンユニクロ」だそうだ。
「グラミンユニクロ」とは、ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌスさんが創設したグラミン銀行グループとともに設立した合弁会社GRAMEEN UNIQLO Ltd. (グラミンユニクロ)での活動のことだ。
貧困問題の解決とともに、地産地消の経済モデルを作っていったこのプロジェクトでは、シェルバさんはバングラデシュに長期滞在し活動していた。
失敗続きの中でも、服で何ができるのかを考え続け、バングラデシュという国と向き合い続けた時間は貴重な時間になったそうだ。
始めシェルバさんは貧困問題に対してステレオタイプな考え方を持っており、「とにかく商品を安くする」ということを当初の目標にしていた。貧困層の方が買えるのはこのくらいの値段だろう、と予測を立てて2ドル程で購入できる服の作成を進めていた。
しかし、そのためにはクオリティの低いものを提供せざるを得ない状況になってしまった。
―シェルバさん「貧困層の方々が求めているものが分かっていなかった。」
貧困層の方であろうとなかろうと、ハレの日に新品の良い服を仕立てたり、都会のブランドに憧れがあったりとそれはみんな同じ感覚なんです、とシェルバさんは語った。
テーマ② 日本のサステナビリティへの向き合い方
日本の消費者のニーズ(シェルバさん→ノイハウスさん)
ファーストリテイリングの環境問題への活動内容から派生し、シェルバさんはノイハウスさんに問いかけた。
―シェルバさん「欧米ではかなり意識の高い方が増えてきているという話が出ましたが、日本のお客様はどのような傾向にあるのでしょうか?」
日本でも欧米のように環境に配慮した商品でないと買わないという消費者もかなり増えてきている、とノイハウスさんは語り始めた。
しかし、日本はまだまだ外国に比べて遅れている部分も多く、そのような商品を探すのに時間がかかったり、本質的に捉えられているのか疑問が残る場合も多いそうだ。
サステナビリティに力を入れる企業にもっと商品をたくさん出してもらいたい、と語る一方でより大切なのは消費者側が「考える力を身に付けること」だとも語った。
ノイハウスさんは発信の中で、AよりもBの方が良いと提示してしまうのではなくどちらが良いのかを考えることができることを大切にしているのだという。
そのため消費者、企業どちらもがお互いに意識を高め合い、サステナビリティと向き合っていくことが今の日本では求められているようだ。
マーケティング×サステナビリティ
今までファーストリテイリングでは※3陰徳を積むという価値観の中で、あえてコミュニケーションを取らずにサステナビリティの活動を進めていた。
しかし、近年では活動内容を公表していかなくては「活動をしていない」と評価されてしまう可能性もあり、広報活動にも力を入れ始めたという。
―シェルバさん「でも実はこのことをご相談させていただきたくて…」
シェルバさんは顧客とともに進めていくべきサステナビリティの活動を、アピールの要素が強くなってしまったり、顧客に教育しているような意味合いが強くなってしまいがちな広報活動に悩みを抱えている、と話した。
ノイハウスさんはこの悩みに対して広報活動において大切なのはメディアを分けることではないかと投げかけた。
強い関心がある人から全く知識がない人までさまざまな人がいて、その需要全てに答えるのは難しいと前置きした上で、多くの人がみる可能性のあるWEBサイトや企業HPには基本的な知識を多く載せ教育的な面も見せつつ、より詳しく知りたい人が調べるであろうInstagramなどのSNSには教育面を省いた内容を載せることを提案した。
―ノイハウスさん「調べれば必ず情報にたどり着くのが消費者としては安心だと思います。」
また重要になってくるのはコミュニティの存在だ、と続けた。
企業が1人でコミュニケーションを取ろうとすると見えていなかった部分も多く出てくる可能性があるため、消費者やインフルエンサーなどを巻き込み、大きいコミュニティの中で信頼関係を築きコミュニケーションを取っていくことが求められてくるそうだ。
情報開示の透明性が大切になってくるサステナビリティではこのようなマーケティングが重要になってくるようだ。
※3 人に知られることなく、良い行いを重ねて行うことを意味する語。陰徳とは、人知れず行う功徳を意味する。 |
サステナビリティの追求と価格の変動
サステナビリティを追求しながら、消費者の手の届きやすい価格で販売することはファーストリテイリングにとって今後の課題の1つだ。
環境への配慮などを優先してしまうとコストがかさんでしまい、誰もが手にしやすい価格で販売することは難しいのが現状だという。
しかし、それでもファーストリテイリングは果敢に挑戦している。
その内の1つが「ダウンリサイクル」だ。
「ダウンリサイクル」とは、回収したダウンの中身をリサイクルし、新しい商品へと作り変えるプロジェクトだ。
この活動のように、1つひとつの商品で何ができるのかを常に考え、サステナビリティと低価格が共存する道を模索している。
実際にこのダウンリサイクルで発売された商品は若い世代を中心に支持を集めているようだ。
これからのサステナビリティの展開
「サステナビリティを意識が高い人だけが取り組む高尚なものにしたくない」とシェルバさんは語る。
ファーストリテイリングは庶民的なブランドである点から、サステナビリティを多くの人に届けるのに大きな意味があると感じているそうだ。
キャンペーンで終わってしまうのではなく、長い期間を掛けて行っていることを発信していくことが必要になってくるようだ。
質疑応答
Q1.消費者に求める行動は?
A.(ノイハウスさん)声をあげること。商品が欲しいと思っていても言わなくては意味がない。自分の意見を発信し、同じ意見の仲間と活動したり、意見ボックスのようなものに投函するだけでも大きな意味がある。
(シェルバさん)同じく声をあげること。カスタマーセンターなどに寄せられる意見は経営層を説得する材料にもなる。サステナビリティを推進する追い風になるためぜひ思ったことは伝えてほしい。
Q2.服の素材に変化はあるのか?
A.ドライイーエックスという速乾性の素材やフリースなどは、品質が保持できる割合(3割ほど)で再生プラスチックを使用するようになっている。
Q3.どのようにして消費者とコミュニケーションを取っているのか?
A.カスタマーセンターや店舗で従業員が聞いた意見などを元にしてニーズなどを探ることが多い。また学校やNPOと協力して各店舗で仕事体験を行うなど地域としての関わりもある。
Q4.グローバル企業として海外とコミュニケーションを取ることの難しさは?
A.政治やお国柄といったところが絡む問題なのでとても難しい。
真摯に対応することはもちろん、NGOとの連携などを通してグローバル企業としてのビジネスの在り方を考えている。
また今後会社全体で取り組んでいくためには社外への教育以上に社内の教育は重要になってくる。
まとめ
今回は日本を代表するSDGsに積極的に取り組む企業であるファーストリテイリングの話を元にさまざまな課題が深堀りされた。
SDGsは目標17にもあるように「パートナーシップ」が非常に重要になってくる。人と人、人と企業、日本と海外、企業と団体…さまざまな関係性がある中で私たちには何ができるだろうか。
質疑応答でも出たが、まず関心を寄せ声をあげることがとても重要だと思う。
企業がどんな取り組みをしているかを知り、それについてどのように感じ、どう取り入れていきたいのかを発信する存在が増えることが大切だ。