【更新日:2023年10月6日 by 杉山さくら】
株式会社アダストリアは、GLOBAL WORKをはじめとするカジュアル衣料品および雑貨を中心に国内外に1,400店舗以上、グループで約30ブランド以上を展開している企業です。
飲食事業を手掛ける会社もグループに抱え、グループ全体で衣料品の製造・販売だけではない幅広い事業を展開。生活を取り巻くすべての事をファッションと捉え、「Play fashion!」をミッションに、ファッションを通じてお客様のライフスタイルを豊かにすることを目指して事業を拡大してきました。
同社もサステナビリティ活動に積極的に取り組んでおり、掲げているのは「ファッションのワクワクを、未来まで。」というサステナビリティポリシー。重点テーマに「環境を守る」「人を輝かせる」「地域と成長する」を設定し、持続可能な企業活動に取り組んでいます。
今回は、アダストリアが掲げるサステナビリティポリシーのもとで、具体的にどのような取り組みを行っているのか、担当者である経営企画室シニアマネジャーの深川智子氏に話を伺いました。
見出し
取り組みを加速させるサステナビリティ委員会の設立
ーー自己紹介をお願いします。
経営企画室シニアマネジャーの深川智子と申します。2005年に新卒入社し、2023年で入社18年目になります。入社後は、GLOBAL WORKの店舗で2年ほど、接客や販売の基礎を学びました。
その後、別のブランドであるapart by lowrysに異動後は、店長・エリアマネジャーを経験し、支店の立ち上げに携わったのち、2019年に現職の経営企画室CSR・サステナビリティ担当者に着任しました。現在は、私含め2名でグループ全体のCSR・サステナビリティに関する戦略立案や推進、実行などを行っています。
ーーサステナビリティ経営を推進するきっかけは何でしたか?
異動した3年ほど前は、日本において「サステナビリティ」や「SDGs」という言葉・概念が、ようやく一般的に浸透しはじめたタイミングだったと思います。特に、ファッション業界はサプライチェーンが長く複雑なことから、生産過程における環境負荷、人権といった社会課題を多く抱えています。
グローバルな潮流や社会要請を踏まえ、ファッション業界が持続可能であるために、本腰をいれてサステナビリティ経営を推進していくことを経営層と議論し決定しました。私自身が長く営業部に所属し、お客様はもちろん、店舗で働く従業員の視点を持ち合わせていたことから、全社を巻き込みサステナビリティ推進を加速することが使命だと感じています。
ーーサステナビリティ活動の推進体制を教えてください。
3年前より隔週で「サステナビリティ定例会議」を開催し、グループのサステナビリティ方針の策定、取り組み内容や施策に関する協議などを行ってきました。
重要な意思決定はもちろん、頻度高く開催することで経営層とのコミュニケーションを円滑にし、スピード感をもって推進しやすい体制だと思います。定例会議の実施を経て、推進体制や実効性をさらに強化・加速させるべきタイミングだと判断し、2023年3月に「サステナビリティ委員会」を新たに立ち上げました。
生産や物流、営業、管理部門、経営企画室といったサプライチェーンに関わる各部門の責任者が自分ごとに捉えながら委員会に関わることで、取り組みが大きく前進していると実感しています。
ワクワク感は何につながる?アダストリアのサステナビリティポリシーとは
ーーサステナビリティポリシーである「ワクワクを未来まで」について教えてください。
当社では、ポリシー策定前より店舗やブランドにおいて社会貢献活動を中心とした取り組みが積極的に行われていました。しかしサステナビリティ経営をグループ一丸となって推進していくにあたり、会社として未来に向けてありたい姿や想いを、サステナビリティポリシーとして共通の言葉に表す必要があると感じました。
策定に向けて、新入社員から社歴の長い社員、営業部から管理部門まで年齢・社歴・業務が異なる社員に個別ヒアリングを行い、誰でも理解できる、シンプルで共感のもてる表現としました。ワクワクすることは、私たちのミッションである「Play fashion!」を提供し続けるための原動力となるものです。
ありたい姿をポリシーに込めたことで、サステナビリティに関連する取り組みを行う際に、従業員ひとり一人の行動や判断基準、立ち戻るべき原点となるものを作れたのではないかと思っています。
ーー3つの重点テーマについて教えてください。
事業や社会との関連性を考慮し、「環境を守る」「人を輝かせる」「地域と成長する」の3つの重点テーマを掲げています。さらに、テーマに紐づく方針・ビジョンをそれぞれ策定し、マテリアリティ(重点課題)については具体的な目標を定めて取り組んでいます。
「環境を守る」では、サステナブルな原料・加工への切り替え、2050年カーボンニュートラルの実現、ファッションロスのない世界の実現に向けて取り組んでいます。
「人を輝かせる」では、性別や年齢、障がいの有無、国籍などに関わらず、多様な人材が能力を最大限に発揮できる組織づくりや環境整備に取り組んでいます。また、誰もがファッションを楽しめる社会を実現するべく、インクルーシブファッションの普及や推進にも力をいれています。2022年からは従業員ウェルビーイングの実現を新たな方針に掲げ、健康経営の推進に着手しています。
「地域と成長する」では、出店地域での支店イベント開催やコラボレーションを通じた地域活性化や地域貢献、公平で倫理的な責任ある調達活動を実行しています。
ーーー業界課題のひとつであるファッションロスに関して、具体的な取り組みを教えてください。
ファッションロス(衣料品廃棄)ゼロ実現に向けた取り組みのひとつに、アダストリアの衣料品回収プロジェクト「Play Cycle!(プレイサイクル)」があります。
各地域の出店施設での衣料品回収イベントの開催に加え、全国約170店舗に衣料品回収BOXを設置し、お客様の不要になった衣料品を自社他社問わず常時回収しています。また、子会社の「ADOORLINK(アドアーリンク)」が展開するアップサイクルブランド「FROMSTOCK(フロムストック)」では、「黒染め」という最もシンプルでロスが少ない方法を用いて、在庫に新たな付加価値をつけ、もう一度お客様の手にお届けするアップサイクル事業を展開しています。黒染めは素材や特性に合わせて染めの種類を使い分けしており、洋服ごとに異なる仕上がりになるため、出来上がった洋服は染める前とは違った新たな表情を見せてくれます。
人を輝かせるための多数の取り組み
ーー「人を輝かせる」を重点テーマに掲げた理由について教えてください。
当社の企業理念は「なくてはならぬ人となれ なくてはならぬ企業であれ」です。従業員一人ひとりが、自分のもつ個性を輝かせ、なくてはならぬ人であることが、私たちのミッションの「Play fashion!」をお客様に提供し、企業として成長し続けるために重要であると考えているからです。
ーーーダイバーシティに関する具体的な取り組みについて教えてください。
当社が展開する商品の7割以上がウィメンズ商品であることから、ダイバーシティ推進においては特に、正社員の7割以上を占める女性の活躍推進に重点を置き取り組みを進めています。
現時点でも日本の平均値を大きく上回る女性管理職比率ではありますが、自主的にキャリアを描き自分らしく働く女性がさらに増えることで、より良い商品やサービスを提供していけると考えています。
研修や講演会の開催だけでなく、社内ネットワーク形成にも繋がる社内座談会といった施策に加え、昨年からは経営会議に女性メンバーが参加するなど新たな取り組みもスタートしています。また「誰もがファッションを楽しむことのできる社会」の実現を目指す当社として、LGBTQ+をはじめとする性的マイノリティへの理解促進や、誰もが不安を感じることなくショッピングができる店舗環境づくり、店舗スタッフへの多様性理解に向けた教育も重要な課題だと認識しています。
2022年より、世界各地でLGBTQ+などのセクシュアル・マイノリティの権利について啓発を促す「プライド月間(6月1日~6月30日)」に、国内全店舗でALLY(アライ:セクシュアル・マイノリティの理解、応援者)の象徴であるレインボーフラッグを掲げる「アダストリアプライドマンス」を開催しています。店舗ではフラッグを掲示する前に、アルバイトを含めた10,000人以上の店舗従業員を対象に、当社独自の動画研修を実施しました。今年は新たに、アダストリア従業員とトランスジェンダー俳優として活躍されている若林佑真さんの対談を実施し、社内外に向けた発信も行っています。
ーー性的マイノリティへの理解を深める独自の研修動画について詳しく教えてください。
「LGBTQ+×ショッピング」をテーマに、セクシュアル・マイノリティを理解するための基本的な知識、当事者が抱える不安に寄り添うための心構えについて学ぶ、アダストリア独自のダイバーシティ研修動画です。具体的には、何も知らされていない当社のスタッフ2名がセクシュアル・マイノリティの当事者の方4名を接客し、その後インタビューを通じてセクシュアル・マイノリティや多様性について学び、これまでの接客を振り返るといった内容です。ALLYな店舗・販売スタッフになるために、改めて「お客様に寄り添う」ために、どのような心構えが大切であるかをテーマとしています。社内でも反響が大きく、一人でも多くの方に見ていただきたいとの声があったことから、現在はYouTubeで一般公開をしています。
ーー人を輝かせる働き方について具体的な取り組みを教えてください。
当社は、総合職、地域限定職、ストア職といったように、自分のキャリアやライフステー ジの変化に合わせて働き方を選択することができます。ファッション業界全体の働き方に関する課題として、店舗の営業時間が長く土日も営業していることから、特に店舗スタッフにおいて家庭と仕事との両立が難しく、キャリアを断念せざるを得ないと悩む方が多くいます。
ライフステージや生活環境が変わっても自分に合った働き方を選択でき、長く活躍できる仕組みや制度を整えることで、安心・安全な職場環境をつくり出すとともに、誰もがやりがいを感じながら仕事ができるようサポートしています。
ーー「A KIDSラボ」について教えてください。
「A KIDS ラボ」は、従業員とその家族を対象とした、2016年より開催している親子参加型の社内向けイベントです。
従業員のお子様に、保護者の仕事を知ってもらうことで家庭で過ごす時間がより充実したものとなり、また一緒に働く同僚が子育てをしている姿を知ることで職場の理解を高め、会社とのエンゲージメントを強化することを目的としています。
イベントでは、保護者が普段どんな仕事をしているかを知るクイズや、ヒカリエ本社の社内ツアー、アップサイクルワークショップなどを行い、さまざまな体験をしながら楽しい時間を過ごします。会社とのエンゲージメント強化はもちろんですが、こうしたイベントに参加することで、従業員のワークライフバランスを充実させることにも貢献していると感じます。
サステナビリティに、ワクワクを
ーー今後の展望について教えてください。
アダストリアはファッションだけでなく、衣・食・住を通じてお客様のライフスタイル全般にあらゆる接点をもっていることが特徴であり、最大の強みだと考えています。
ファッションは、自分自身を表現し毎日を豊かにしてくれる人生に欠かせないものです。私たち自身がワクワクしながらサステナビリティに取り組むことで、お客様に喜んでいただき、そしてそれが社会全体のサステナビリティを高めていく、そんな好循環を今後も生み出していきたいと思います。
さいごに
アダストリアではお客さんへのライフスタイルに寄り添っているだけでなく、従業員のライフスタイルや声に寄り添っていると感じます。レインボーフラッグを各店舗に置く取り組みも、最初はある店舗の現場スタッフの声から全国に広まりました。今後アダストリアの店舗に行く際には、どんな取り組みがされているのかも楽しみながら買い物していきたいです。
SDGsコネクトインタビューユニットライター。大学では大きなくくりで性について勉強しています。人の熱量をそのままに記事を発信していきたいです。好きなものはピンクと美しいもの。