”お客様満足度 = 従業員満足度”人を大切にしてSDGsにも貢献する千房社長の理念

#ダイバーシティ#働きがい#経済成長 2021.07.21

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【更新日:2022年7月13日 by 三浦莉奈

大阪や関東を中心に国内外に展開するお好み焼き専門店、千房。多くのお好み焼専門店がある中で、千房は1973年に大阪・千日前に創業してから40年以上、多くの人に愛され続けている。

その一方で、受刑者の就労支援に取り組むなど、その活動に注目が集まっている。

苛烈な生存競争が繰り広げられる飲食分野において、千房はどのような考えでSDGsと向き合ってきたのか。

今回は、千房株式会社の社長、中井様を取材した。創業から一貫して「人」を重要視してきた千房の理念やSDGsへの具体的な取り組みについて伺う。

従業員が誇りを持って働ける会社を目指す

ーー最初に、自己紹介をお願い致します。

中井:千房の社長を務めている中井です。

千房を創業したのは私の父ですが、私は三人兄弟の末っ子で後を継ぐつもりは全くありませんでした。東京の大学を出て証券会社に入社しましたが、後継ぎとして千房に入っていた長男が急に病気で他界し、証券会社を退職して千房に入社しました。それが7年前のことで、3年前の2018年に代表取締役社長に就任しました。

ーー千房について教えて下さい

中井:千房は創業48年のお好み焼・鉄板焼のレストランとして、私の父親が大阪の千日前に創業しました。今(2021年7月)現在、海外に5店舗、国内に72店舗、合わせて77店舗を運営しています。これはお好み焼・鉄板焼業態だけではなく、居酒屋業態や、おでん屋さん、ステーキハウスも含んでいます。従業員総数は1500名ほどで、そのうち、正社員は、250名ほどです。

ーー2018年の社長着任時から、なにか目指しているビジョンはありますか?

中井:子供の頃から「千房の従業員が夜遅くまで、お好み焼を焼いて、お店を切り盛りして、そのおかげでお前は、今まで生きてこられてるんだ」、「従業員に感謝をしなさい」ということを、父に叩き込まれてきました。

だから私の最終的なゴールは、従業員が誇りを持って働け、千房の従業員は世界一幸せだと言える会社をつくることです。メディア出演や講演なども、すべて千房の従業員のためだと言っても過言ではありません。従業員のモチベーションを上げることを最優先に考えています。

ーー従業員を軸にしたブレのない施策の背景には、小さい頃からの教えがあったんですね。

中井:中井家には家訓があります。そのなかに「従業員は家族だ、温かさとさわやかさを与えよ」という言葉があるんです。

実は私は、幼稚園の頃からずっと千房の入社式に出席してました。唯一の家族旅行も千房の慰安旅行でした。私のライフステージには、必ず千房があり、千房の従業員と関わりながら一緒に生きてきました。これが私の源泉なんです。

ーー小山さん(マーケティング部)から見て、中井社長は普段どんな社長に映ってらっしゃるんですか。

小山:先ほどの話にもあった通り、社長は従業員の幸せやモチベーションに重きを置いています。海外出店を加速させる際など、長期海外出張に行かせていただいたりと社長が就任してから活躍の機会をいただけています。社長は、常に従業員にベクトルを向けて動いていると感じています。

人にフォーカスする姿勢が自然とSDGsにつながる

ーー千房の取り組みとして有名なのは、元受刑者を雇用する取り組みですよね。元受刑者の雇用について詳しく教えて下さい。

中井:創業時の1973年、オイルショックの真っ只中で、お客様も従業員も来てくれない状況でした。誰も来てくれないので、猫の手も借りたい状態でした。

そこで、過去の職歴、学歴、学業成績、一切不問で採用をスタートしました。

過去は一切問いません。少年院上がりだけでなく、引きこもりだった人などが社員として入ってくれて、やがて主任や店長になったり、フランチャイズのオーナーになったり、立派に更生をしました。

そのこともあって、正式に法務省から委託を受けて、刑務所を出所した元受刑者の雇用を行っています。出所してから住むところと職場を提供する就労支援の取り組みです。今から十数年前に始めて、40名以上を雇って、現在、5名が今でも頑張ってくれています。退職してしまった従業員もおり、一筋縄ではいかない非常に難しい取り組みと感じています。

ーー今も残っている5名の方たちは今どのように活躍をされていますか?

中井:普通に店舗で働いてます。今、地方や郊外に新しく4店舗、出しましたが、そのうち、3店舗の店舗責任者は元受刑者がやっています。それはお客様は誰も知らないかもしれませんが、普通に店舗責任者としてバリバリ頑張ってくれています。

ーー組織としてダイバーシティ(多様性)を重視しているのでしょうか。

中井:中小企業がSDGsへの取り組みをお金をかけてやるというのは、なかなか難しいことです。SDGsやダイバーシティは、ある意味大企業のブランド価値を上げるための施策と思っていました。とくに飲食業は新陳代謝が激しく、そもそも持続成長が難しい業界です。

しかし今はお客様や社会のニーズが多様化していくのであれば、それに準じて会社も変化していこうと思っています。千房が変わらないために、変わり続ける必要があるんです。

例えば、インバウンドのお客様がたくさん入ってきたときに、イスラム圏のお客様も食事ができるハラールに対応したお店をつくりました。お客様に愛されるお店を、会社を作っていけば、持続成長につながると思ったわけです。そのためにはまず、従業員に愛される会社を作っていかないといけません。

「お客様満足度」は「従業員満足度」と同義語だと思います。従業員が満足してないと、お客様は絶対に満足できません。そうであれば、従業員、人にフォーカスする会社を作っていかなければいけないのが私の結論です。

人にフォーカスした会社であることが結果的にSDGsにつながってるということかもしれません。

先を見据えて従業員を守る取り組みを

ーー評価指標などの具体的なフィードバックのシステムを導入されていますよね。

中井:頑張ったら頑張っただけ評価される、頑張らなければ、それなりの評価しかつかないというのは当たり前だと思います。そこで、しっかりと公平公正な評価制度を作りました。きちんとフィードバックすることで納得性を高めるようにしています。

頑張った指標は、それぞれの部署ごとで全く異なります。どういった指標・目標設定なのかを評価する人、評価される人が、話し合いのなかで決めていく。結果が出てきた際は、その結果に対してどれぐらいの難易度・達成度かを、お互いが納得性を持ってフィードバックするっていう仕組みを作ったんです。

ーーさらにパートを廃止するなどの取り組みも進めていますよね。

中井:今、コロナ禍の状況で飲食店は人余りの状況になっています。千房で働いてる1500名のうち正社員は200名ほどで、パートやアルバイトの方が大部分を占めています。コロナ禍で自分の学費を稼いでる学生や家計を支える主婦層の方が退職を迫られるのは、すごく苦しいことです。そこで、まずはパートの方を守るためにパートを全て廃止しました。

パートの方は基本的に正社員にしています。働ける時間帯や地域に縛りがあるので、時間限定社員や、地域限定社員、店舗限定社員などの正社員の区分を新たに作りました。時間限定+地域限定といった組み合わせもできます。これにより、正社員として保険やボーナスの部分で従業員を守ることができます。

新入社員の雇用も積極的に進めています。実は2020年4月入社の新入社員は50名、2021年4月入社の社員は30名雇用しています。外食産業でこれまでの人数を新規採用してる企業はほぼないと思います。短期的に見れば、外食産業は人が余っている状態です。しかし、将来的には必ず人手不足になると予想しています。

人材をしっかり確保して、雇用を守っていくということに取り組んでいます。

ーー小山さんから見て会社の中の雰囲気が変わったと思うことはありますか?

小山:やはり社長がよく言うのは、今だけではなく「先を見据える」ということです。このコロナ禍の状況において、新入社員50人、30人を採用することは、正直、かなり無謀な取り組みかと思いました。

1人を雇うのにも大変なお金がかかります。コロナ禍ということもありますし、短期的な目で見ると、どうしても足元のコスト重視した発想に至ってしまいます。

そこで長期的な視点を評価制度にも反映しました。新入社員も目標を立てるのですが、自分の目標が会社全体の目標とどのようにつながっているか、自分の位置を明確に可視化できるような評価制度に変えました。

長い目で見た時に、新入社員が、3年後、4年後、5年後に、どういった立場であってほしいかを明確化でき、会社を支える屋台骨になてほしいと考えています。

リボーン会議というのも昨年の5月くらいからずっと続いていて、今までになかった発想や取り組みが出ているので、その辺りもいい方向に向いてるんじゃないかなと思ってます。

ーー中井社長の人を重視した経営手法は、証券会社での経験も活かされていますか?

中井:証券会社時代にリーマンショックがあり、資産運用を担当した会社が潰れていくのを目の当たりにしました。責任の発端は私にあると思いましたが、そんな状況でも会社の社長は社員のためを1番思っていました。1997年に山一証券が破綻した時に、社長が泣きながら「従業員は悪くありません」と言っていたのを思い出しますが、やっぱり経営者は涙が出るくらい、社員のこと、従業員のことを常に思っています。

その経験から、私はどんな施策をするにしても、常に従業員、社員にフォーカスすることを起点として考えています。それは僕が千房に入社したきっかけでもあり、千房の従業員に恩返しをするためにこの会社に入ったという、私の起点にも通じますね。

「人」という資産を守ることが持続成長につながる

ーー積極的に改革を進めいらっしゃいますが、攻めと守りのバランスをどのようにとっているのでしょうか。

中井:守ると攻めるって、どっちもどっちですよね。攻撃は最大の防御という言葉もありますし、守る攻めるは、どちらも言えると思うんですよね。

われわれの取り組みは、「攻めていこう」とか、「守っていこう」ではなく、今やるべきことは何なのかを一人ひとりが考えた結果です。
今の会長は、創業当時からトップダウンで指示していましたが、僕は「すべてボトムアップで、まずは現場で考えてください」と現場で判断するように伝えています。

攻める守るというよりは、現場が一人ひとりが今やれることをしっかり考え実行する、という流れを作っています。

ーー最後に今後の展望を教えて下さい。

中井:今後も、千房の理念や創業の想いを大切にしていきたいと考えています。

社員からアルバイトに至るまで理念研修をして、そういった想いにベクトルを向けることで、創業者の理念や想いを将来にわたって継続させていきたいと考えています。

経営はマラソンではなく駅伝だと思います。そのバトンをしっかりとつなぎ、紡いでいけるような組織体を作っていきたいと思います。

飲食店のバランスシートに見えない最大唯一の資産は「人」だと思います。その「人」を、しっかりと大切にする、それはお客様だけでなく、働いている従業員もです。それこそが将来の千房の持続成長につながっていくと思います。

さいごに

今回の取材を通して、ここまで人に着目し従業員を強く想う企業があったのかと驚いた。

人を想い、大切にすることを企業の持続成長につなげるには、具体的な施策をしっかり実行していくことが求められる。リスクを背負ってでも従業員を第一に考えた取り組みができるのは、創業当初からの理念が引き継がれているからだ。

「人」にとことんフォーカスした千房だからこそ、自然体のままSDGsにも繋がり、成長していけるのだと感じた。

 

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